※3年ほど前の文章です
宮崎県の南部、もはや鹿児島県の方が近い地域に、「幸島(こうじま)」という、船でしか渡れない島がある。
約100匹の猿が棲む、小さな島である。
”猿”と言うと私は、小学生の時に襲われた野生猿と、大分県の高崎山でイモを取り合う猿の2イメージしか持っておらず、おしなべて、強暴イメージだった。
だけど去年、幸島を訪れた際、そのイメージはガラリと崩れた。
「おお、出てきたね~。あれがボスですわ。」
船頭さんが言う先をみると、ちょいとドヤ感のある猿がこちらをじっと見ている。
森の奥からはキャーキャーという鳴き声が響き、わらわらと猿が現れ始めた。
あれ?なんかみんな、おだやか・・・
警戒するでもなく、媚を売るでもなく、「何しにきたの?」的な、ごく普通の感じで私たちの船を追って岩場を行く猿たち。
しばらくして、とある岩場で船が停まった。
私と友人の横を、研究チームがスタスタと降りて行く。
「浜が浅いもんですから、ここから浜までは岩をつたって行ってください」
と船頭さん。
オイオイまじか!!うちら完全に観光ルックだけれども!!
三十路を越えて岩場をつたう、という経験に友人と爆笑しつつ、フナムシに怯えながらなんとか浜まで着くと、早々についた研究チームが観察を始めていた。
見える範囲にいる猿は50匹ほど。
私たちには全部一緒に見えるのだけれど、研究チームの学生さんでも、もうだいぶ識別できるのだという。
飲食物を持ち込まない
猿とは目を合わせない
を守り、島までの唯一の交通手段の船(一人1000円~)を使ってまでこの島にわたる人は、今ではそんなに多くない。
それもあるのか、目の前にあるのは、まさに”猿の楽園”だった。
人間10名に対して猿50匹くらいなので、完全に人間が「おじゃましてまーす」な存在。
子ザルがツタでブランコしてたり、
血気盛んなの若猿が喧嘩していたり、
ぼーーーっと日向ぼっこしてる猿もいる。
湾のようになった浜から見える海と空はきらめいていて、振りかえると、木々達が風に揺れていた。「あんた誰よ?」って私を見てる猿と目が合いそうになって慌ててそらしてみたり。
1時間もいなかったと思うけれど、本当に不思議な体験だった。
「前に韓国の撮影クルーが来てね。わざと猿をけしかけて怒った顔を撮ろうとするんで、出禁になったんですよ。猿の性格が悪くなってしまうからね。」
帰りは私たちだけだったので、船頭さんが色々と話をしてくれた。
彼もまた、ずっとこの島を見守っている一人なのだ。
島という特性、水戸サツエさんという地元の教師と京都大学研究チームがずっと見守ってきたこと、観光客に餌付けをさせなかったことも影響して、幸島の猿は独特な穏やかさと、群の特性を持つ。
そんな幸島が、最近、陸続きになっていると聞いて心配していた。
あの穏やかな空間に悪い影響が出ないといいけれど・・・
でもそれが、台風でまた島に戻ったらしい。砂が大量に流されたためで、一か月は持つだろうと地元の新聞で読んだ。
なんと言うか、自然の大きさを感じる記事だった。
スローに営みを続けてきた自然と、急速にパワーを持っちゃった人間。
やっぱりパワー持ってる人間側がしっかりお勉強して、意識的でいることが大事なんだよな。